Dr.W

今日は、ハーバードの医学部生と授業の日だ.授業の内容は、皮膚科の治療の話であった.一応すべてノートに取ってきて,かつパワーポイントももらえるので,これについてもそのうち書こうと思う.

例えば,薬の認可されているされていないの問題もあるのだろうが,ニキビの治療とかは,標準皮膚科学に載っている日本の治療とは異なる感じの事をしている.先々週のニューイングランドジャーナルオブメディシンにニキビの治療のほうのまとめがたまたま乗っていたので,これもそのうち日記に書こうと思う。用は重症度によって治療法を変える必要があり、それによって副作用とか検査が代わるのだ.

ここの外来は,基本的には脂漏性角化症、基底細胞癌、老人性角化症、そして、メラノーマのスキンチェック、ニキビ,皮膚炎、そして、薬疹などの治療が多い.これらで,外来の8割以上になる。メラノーマは、皮膚科の肝なのだが,ここで診断されている例は殆ど見たことがなく、僕が日本で.診断の過程などを見たことがあるといったら、うらやましがっていた.特に、デルマトスコピーを使って,皮丘にそった増殖をするかどうかで判断するという話にはすごく興味を持っていた.しかし、ここで2番目ぐらいにえらい先生は、この話を事前から知っていたようで、この間生徒に教えていた.i don't know. Somebody told me.という言葉をつけて。まあ、ここにいつかきていた日本人の人が話をしたのだろう。

そんなわけで,午前中は終了。実は水曜日は外来もないので,本来予定がない.図書館に行って本でも読めばなどといわれたのだが,これがチャンスなので,アメリカの家庭医の実情を見学にDr. Wに会いに行こうと決心した.

Dr. Wは、少し変わった医者であるような気がする.しかし、全身から出るその優しそうな雰囲気で患者さんには人気で,いつも外来は混んでいるみたいであった.いわゆる日本で言ういい医者である人だと思う.僕が,この先生と会ったのは先週の金曜日だ.時間外にうちのコンサルトに電話をかけてきて,今ここで困っている患者がいるのでできれば見てやってあげてくれないかと話をしてきた.一般的に、アメリカの医療は、完全予約制で,しかも、外来の患者をコンサルトすることはできず、今回のようなことは今まで出始めてだといっていた.ハンナがこの患者に対応することになったのだが,金曜日の時間外でしかも、受け付けも閉まっているので、結構、困りながら対応していた.ハンナは普段は明るいのだが,忙しいことは結構いやみたいだ.そうはいっても、患者が来たら笑顔でさっさと診断して、治療法をいっていた.ネクタイによる接触性皮膚炎であった.(+自己感さ性皮膚炎)そのあと、土曜日に近くのスーパーであるtrader joe'sで買い物をしていたら,この先生が、買い物をしていた.そこで、話をして,是非今度外来を見学させて欲しいというお願いをしたら,いま、部屋が散らかっていて、しかも忙しいのでどこまでできるか分からないが,興味があるならばまず秘書に話してくれと名刺を頂いた.最近、頚椎症だか,胸郭出口症候群(これはむしろ痛いより痺れる病気か)だかで、左腕が悪魔に握られたぐらい痛い思いをしたらしく,今は首のカラーをしている.(ここからだと、頚椎症なのでしょうか)そのせいか,少し変わった人に見える.秘書に会って,10分ほど待つと,Dr.Wがでてきて、これから患者さんと話をして許可をえたら、外来を見せてあげるよと約束してくれた.外来に使う部屋は,先生が前言っていたように非常に散らかっていた.たぶん、腕が動かないのと、忙しいのでかたずけられないのだろう。今週末に誰か人がきてかたずけてくれるのだといっていた.糖尿病の患者,風邪の患者、そしてクモ膜下出血後の患者であった.特に,くも膜下出血の患者さんは,結構疲れきっていて,家族の方などと話をしているとつい涙が出てしまった.

この国には、大きく二つの保険制度がある。一つはmedicareで、もう一つはmedicaidといわれるものだ.それぞれ、お年よりのためのものと、給料が低い人のためのもので,それでカバーされない人は、会社の保険に入ることもできる。しかし、アメリカ人人口の3分の1ぐらいが保険でカバーされていないことになる.まあ、日本の場合は国民皆保険制度であり、僕らのように殆ど全く病院に行かないのに毎年30万近くのお金を納めていることに対しても、若干疑問をもつのだが,一般的には日本のほうが優れた制度だと思う。こちらの外来の人ともよく話をするのだが、日本の保険の制度、医師の仕事の話をすると大体、日本のほうがいいとこちらの人は言う。もっとも、僕自身というバイアスがかかって話をすることがそれを導いてのかもしれないが.町医者を含めると、どうなるかは僕の知ることではないが,日本のほうが一般的には安い給料でよく働いていると思う。ただし、ハーバードやMGHは若干別で,ここでは結構せわしく治療をおこなっている。一人前になったアメリカの医師の平均給料は日本の約1.8倍でまあ、2500万ぐらいになるとは思う。特に,心臓外科,脳神経外科などの人は、さらに高給であることが知られ,1億円を越える人も結構いる。話をすると、(イチローなどの)野球選手と一緒だよ。能力があるのだから当然だろ。などという返事が返ってくる。要するに、外科系ならば日本の大学病院で4年ぐらい働いたのと同じ給料をここでは1年でもらえることもけして珍しくないことなのだ.外科医は外科しかしないで,あとの周術期管理は給料の安い内科医がすることも日本と違う。むかし、たぶんbusiness weeksとかに載っていたのだが、こちらでは、you are just one disease away from bankrupt.などといい、保険に入っていたとしても、1つ大きな病気になると破産をしてしまう人は人口の4割近くいたと思う。

外来は面白かった.皮膚科の、見てすぐぱっとの診断と違い、ここでは、いろいろな話を聞いて患者さんの人生に少しタッチする。たとえば、老人ホームの紹介で会ったりとか,他の専門医の紹介で会ったりとかそういうこともする.Dr. Wも、首のカラーをとって患者と話をしている様は、部屋が散らかっていることを差し引いても、すばらしかった.患者からは信頼されるいい医師であるようであり、秘書の人から聞くと、この先生の外来はいつも混んでいるようであった.アメリカ人は部屋が散らかっているかどうかはあまり気にしないなどということもあるのかもしれない?

また、医師の勤務形態もこちらでは違う。 Dr. Wが教えてくれたのだが毎月$5000を大学に払い、場所を借りて、秘書をじぶんでやとって、開業をしておるのだという。大学内開業だ.ハーバード内で開業していると、ここら辺の関係施設への紹介が結構たやすく、そういう患者層もここには来ていると言っていた.

そのあと、先生に内科の病棟であるとか、救命治療室であるとか、放射線科の読影室であるとかを案内してもらった.ふむ、なかなかいい機械が入っているみたいだ.まあ、でも、電子カルテだけなら近くのあの病院のほうが上だなあなどとおもって帰ってくる。

今日は楽しかった.やはり内科も楽しい。といっても殆ど老人医療なのだが.帰ってくると、Dr. Wからのポケベルがなった.電話をすると、いろいろなカンファレンスを紹介してくれた.やはりこの人もいい人なのだなあと心から思う。最近の僕は運がいいみたいだ.


写真は明日上げます。ER